物質のすべては光: 現代物理学が明かす、力と質量の起源 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫―数理を愉しむシリーズ)

物質のすべては光: 現代物理学が明かす、力と質量の起源 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫―数理を愉しむシリーズ) の詳細

「反証可能な理論は許可を求め、擁護可能な理論は許しを求める----そして、非科学的な理論は、罪の意識をまったく持っていない」。かなり面白かった。歯ごたえ十分の内容。数年前に読んだ「こんなにわかってきた素粒子の世界」を手元に置いて基本を確認しながら、無理せず小分けにして日数をかけてじっくり読ませてもらった。著者は、２１歳の時の研究成果で２００４年にノーベル物理学賞を受賞した科学者。テーマの中心は質量。E=mc**2の意味から始まり、素粒子の世界が一気にひろがってゆく。単に素粒子の話題だけに終始しているのではなく、著者の幅広い教養がそれとなく絡んでくるのが特徴。モーツァルトの時代のアントニオ・サリエリも登場する。クオーク、ＱＣＤ、ＱＥＤ、ボゾン、光子、グルーオン、ファインマン図などは、和書でも物理関連の知識を扱う一般の教養書でおなじみ。ただ、本書にはそれだけにとどまらず「グリッド」などの概念も出てくる。ここは重要。また、一般的なカラーチャージの色は好きではないらしく、ちょっと違っていたりする。まあ、実際に色がついているわけではないから問題はないけれど。ダークマターについては、この著者は超対称粒子かアキシオンが有力候補だと考えている。一方、ダークエネルギーについては「まるで時空の本質的な属性であるかのよう」と述べている程度で、はっきりしたアイディアが生まれるのはかなり先になると思っているようだ。訳文は良質。読みやすく、丁寧に注釈が入っている。一般の翻訳家ではなかなか手を出せない内容だが、とても良い仕事をしている。また、巻頭に、ヨーロッパにあるＣＥＲＮの大型加速装置ＬＥＰで撮影された写真などがカラーで数枚載っている。「物理的世界についての私たちの最善の理論が複雑で難解に見えるのは、それが深遠なまでに単純だからである」。