サリン事件の真実 (新風舎文庫)

サリン事件の真実 (新風舎文庫) の詳細

事件から１６年目の２０１１年。ようやく地下鉄サリン事件について知ろうという気になれた。というのも、事件当時自分は出家信者であったからだ。教団を離れて以来、今日に至るまでの１５年近い間、教団の過ちと自分がオウムの出家信者であったことを悲しまなかった日は一日とてない。この本には最も知られている地下鉄サリン事件をはじめとして、一連のオウムによる生物化学兵器を用いた事件について、どのように調査され、薬物と犯人を割り出したかということが書かれている。著者はその以前から生物毒を中心として研究していた台湾出身の化学者である。かつて日本の化学専門誌に連載していた記事の中で、イラン・イラク戦争を調査したイギリスの研究所が土中から神経ガスの分解物を発見したことを示して、画期的な毒ガスの特定法だと記していた。それが元となって米国で教授職を務めていた著者に日本の警察から協力の要請があったのだという。その後、米国陸軍に依頼して極秘情報であるはずの毒ガスの検出法を日本の警察に送るなど、事件の解決に大きくかかわったことから、解決の裏側でどのようなことが行われたのかを一冊の本にまとめたのがこの本である。前例のない特殊な事件を調査するには、多くのハードルをクリアしなければならない。世界中にわずかにいる専門家を国際的につなぐネットワークがあり、それが協力し合ってスピーディに情報を交換し合うことが必要だと思い知らされた。さらに、事件後の世界の反応についても書かれており、生物化学兵器を用いた無差別殺人や、化学工場などでの事故に対してどのような対策がされてきているのかも知ることができる。写真が多用されていてページ数が少ないこともあって、文章が少なくもう少し掘り下げてほしいところもあるが研究者らしい作りこみのない文章が読みやすいと感じた。